第5回 원주통신 原州通信

第5回 

「原州通信」
원주통신 

イ・ギホ 이기호 


国民的作家と
大人になりきれず
人生を彷徨う男との
 アイロニカルで
 ユーモラスな邂逅

 「原州通信」はイ・ギホ作家の自伝的小説で、小説「土地」の著者である朴景利作家との出会いを描いた作品…なのですが…。 

小説「土地」はドラマにもなり、放映当時大人気だったことも作品の中で出てくるのですが、参加者は「土地」を観た世代ではありません。それでも関心は持ったようで、漫画版を読んだ人も。日本にある韓国文学書店「チェッコリ」の店員さんは、現在8巻まで出ている翻訳本を全部読んだそうです。 


~ここからは小説のネタバレを含みます~ 


小説の中で疑問に思ったのは、最後の方で出てくる「ぼく」のセリフ。なぜそのような発言をしたのかがよく分からない不思議な発言なのですが、作家自身の中で二つの人格が形成されているのでは、という意見まで飛び出しました。作中でも声に出して自問自答する場面もあるため、おかしな話ではありません。 


この作品だけを読んでも分かりますが、イ・ギホ作家はそうとうユーモラスな文を書く作家のようです。 他の作品がとても気になります。

参加者の気に入ったフレーズにはこのようなものもありました。

吉祥という名前を初めて聞いた時は、ちょっと驚いたし、戸惑ったのは事実だけど、西姫まで登場してきたもんだから、すべてが単なる悪ふざけにすぎなくて、朴景利先生とは何の関係もない、そんな名前に思えてきた。


住宅に関する話も出ました。「フランス風の新しい住宅」から「市の中心部の28坪のアパート」に「ぼく」が引っ越すのですが、時代に沿って家が移り変わる様子は朴婉緒作家の作風と似ており、「朴景利作家ではなくて朴婉緒作家と勘違いした」という人も。 

また、高級クラブ「土地」があった「原州郊外の新興住宅地」というのはどんかイメージなのかという話も出ました。家に対する関心は「ソウル読者部」のメンバーに共通するところです。


作中の面接の場面で出てくる「漢拏山をソウルに移す方法」について、模範解答があるのかと思ったのですが、ある参加者が出した答えは、地図を折って地図上の漢拏山をソウルに移す方法。

また、「山の土と木をダンプで運べばできる。そのため、山の土と木の体積を計算してどのくらいの期間と工費がかかるかを計算し、その予算を引っ張ってくるための方法を考える」という意見も出ましたが、模範解答はその場ではでませんでした。 


驚いたのは、慶尚南道出身のはずの朴景利作家のセリフが慶尚道訛りではないという指摘。釜山に住んでいたことがあるという人の「ネイティブ」の発音も聞くことができました。

もっとも、作中のセリフはイ・ギホ作家が演じる朴景利作家なので、もしかすると江原道訛りなのかも知れませんが。


結局、朴景利作家の話は出てきながらも本人は登場しないのですが、「作家は動かなかったとしても周りに影響を与えるものなのかもしれない」という話も出ました。実際に、イ・ギホ氏は作家になったのですから。 


今回も30ページほどの短編で、1時間半を越えて深く、楽しく語り合いました。

韓国人同士が韓国語で作品を読んで語り合う、あるいは日本人同士で日本語で読んで語り合う場はあっても、原書と翻訳本を置いて日本人と韓国人が一緒に語り合う場はなかなかないのではないでしょうか。次が楽しみです。 



年代の記述が「一千九百八十年」といった具合なので、
年代に意味があるのかと思ってつくった「原州通信年表」 



クオンから出版されている小説「土地」の翻訳本。
「原州通信」を翻訳した清水知佐子さんも訳に参加しています。
ちなみに、日本語のイントネーションは「土↗︎地」ですが、
韓国語のイントネーションは「土↘︎地」だそうです。


https://tv.kakao.com/channel/9262/cliplink/16040205

 作中にも出てくるドラマ「土地」で流行した西姫のセリフ
「八つ裂きにして、飢え死にさせてやる!」。
これは1987年のバージョンではなく、2004年のバージョンのようです。
 

作中に出てくる朴景利作家の家は、現在は「朴景利文学公園」となっています。
http://tojipark.wonju.go.kr/main.php
道路名住所も「土地ギル」となっていますね…。 

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